くわな幼稚園では、教育学博士の深谷圭助先生が提唱されている「辞書引き学習法」に取り組んでおられます。この学習法を実践している小学校があることはよく知られていますが、幼稚園・保育園で取り組まれている事例は少ないのではないでしょうか。どのようなきっかけで実施に踏み切られたのか、そしてどのような方法で実践されているのかを興味深く取材させていただきました。
導入のきっかけを水谷園長先生にお尋ねすると、幼児期からより多くの言葉に触れさせたいとの考えで、小学校で行われている辞書引き学習法を取り入れたということです。深谷先生の実践ビデオを取り寄せ職員間で何度も話し合い、恐る恐る始めたのが4年前のことだったそうです。
最初の取り組みは、子供たちが関心を持っている体の部位調べからだったということです。め[目]、て[手]などの一文字の言葉を探して、付箋を貼っていくことからの挑戦です。しかしながら、五十音を十分に理解していない子供も多く、中には、1ページずつめくりながら探そうとする子供もいたそうです。時間ばかりが過ぎ、根気のいる作業だったと、当時を振り返りお話ししてくださいました。
その後、子供たちを観察していると、目的の言葉を探しながらも途中で、関係のない言葉を発見しては喜び、読み上げて楽しく取り組んでいる姿を見るようになったということです。そこで、今までの導入方法を見直し、目に入った好きな言葉、知っている言葉を自由に選び付箋を貼らせていく方法に切り替えました。
その結果、子供たちの意欲はどんどんと伸び、今年度は、10月までに最も多い辞書は3,400枚、最も少ない辞書でも179枚の付箋が貼られています。ただ、少ない子供に「もっと貼りましょう」などとは言わず、すべて自主性に任せています。子供たちは、給食が終わった後などに「勝手に」取り組んでいるということです。同じ言葉や似た言葉、隣り合わせの言葉に連続的に付箋を貼っていきます。大人から見ると有効ではないと思える部分もありますが、子供たちは真剣そのもの。つまり、この活動の最たるものは、辞書の「姿」そのものです。頭に入っているかどうか、ズルをしたかどうかは、一切、問わないということです。辞書が付箋によって花開く様を見て楽しむ、そしてそれを眺めて自分の成果を知る。これこそが、この辞書活動の最大の目的です。
子供たちにとっては、カタカナも漢字も関係ありません。目に触れるすべての情報に対して、付箋を貼り付けています。ワンピースはすでに服屋で販売されているものではなく、テレビから飛び出すアニメ番組としての存在となっています。それでも、ピンときたら貼る。たとえ結果が違っていようとも子供たちのモチベーションをかきたてる限り、そこに大きな意味があります。先生方は、口を出さず辞書の上に開いた子供たちの心の花を大切にされ、それを子供たち自身が自分の力で育てていくことに喜びを感じられています。
これらの活動は、今後も楽しく実践されていかれるに違いないと感じ、幼稚園を後にしました。